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施設のバリアフリー10.03.10

 幾つかの調査の中で分かったことだが、現在の日本にある特養の中で施設職員の管理のための対応は数多くあっても、入居者自身のための感心するような特別な建築的配慮として発見できたことは多くはない。勿論、感心した配慮を持った施設もいくつかあるので片手落ちにならないよう申し上げておく。殆どは一般的なバリアフリー対応である。これはなぜだろうかと考えると、いくつか配慮以前の問題点がある事が分かる。
先ずは、現在の設計者の選定方法がある。施設を訪問してぐに分かる事であるが、玄関に段差があればもう殆ど内部はバリアフリー対応にはなっていない。驚くべきことだが、バリアフリー対応になっていない施設も存在する。これは設計者を選定するときに施設設計に向いていない人を選んだ結果である。指名競争などの時に設計への姿勢や経験などではなく設計料の金額だけで設計事務所を選定すれば間違いなくこの様な悲惨な問題は起きる。あまり知られていないことであるが、設計をするには調査や時間をかけて設計図を描くわけで当然に費用がかかる。図面によって建物は工事されるので、特養であれば普通大変な枚数の図面が必要である。それが少なければ設計情報が建設会社に十分に伝わらず発注者の意図通りに完成できないか、場合によっては手抜きをされることになる。その様な建物はバリアフリーをうんぬんする以前の問題である。
この様な場合はさておき、きちんと知識も持ち経験もある設計者の場合でも時には考え方の違いにより入居者への配慮に欠けたおかしな箇所を見かけることがある。設計者の中にも設計する際、利用者のことを中心に考える人もいれば自分の主張を表現したい人もおり幅広い。変な部分が発見された場合、設計者が独りよがりで暴走したか施設とのコミュニケーションがうまくいっていないケースであろう。その場合は、双方ともに責任がある。しかし、そこに入居する人の側に立てばあってはいけないことで大変な問題である。
基本的に、施設などハードを造るには技術があれば誰にでも直ぐにできる。しかし、入居者の誰もが喜ぶ良い施設はハートがなければ決してできないと私は考えている。何事にも入居者やスタッフなど使う人の状況・場面を考え、その心の時間的な変化までも思いやり配慮して計画しようとしなければ良いものが出来るはずがない。その基本的な要素の一つがバリアフリー対応といえる。


施設: 痴呆性高齢者施設
(2002.12.10)

先日、別府で開催された日本痴呆ケア学会に参加しました。現在、痴呆の問題は家族や関係者だけでなく社会的に大変に関心が高いことを示すように、全国から研究者や施設関係者など熱心な人たちが大勢集まって、湯の街別府のビーコンプラザという立派な会場で連日議論がされました。初日には教育公開講座として別府の隣の大分の市民公園内の能楽堂で講演・シンポジウムが開催され、長谷川先生の講演やシンポジウムでは家族の会の方や施設の方の話のほか芸術活動を取り入れた現場対応の話などがあり、鬱状態だった人などがかなり回復したなど多くの人たちにその効果があることについて説明などがありました。音楽療法などもそうですが、対応していく発想の幅をさらに豊かに広げていく必要がありそうです。
 痴呆症において発生してくる問題に関しての配慮点は、本人のさまざまの面における認知をいかに手助けして記憶の糸を辿りやすくするかという点と、身の周りの危険を減らし安全をいかに確保するかという問題だろうと基本的に私は考えています。しかし、施設などでのさまざまの取り組みの試行の中で確かに症状が改善した事例なども聞きますので一概には言えないのですが、異常行動や徘徊などの痴呆症状そのものが他の病気や怪我のように回復するのかしないのかについても、スタッフのケアの質や入居者との相性などとの関連も考えられ、その度合いについてはかなり個別性が高いように考えられます。従って、一般論にするにはまだ確信は無く、その症状のメカニズムについてもまだ不明な部分があり、ましてやその建築的な対応についての解答はこれからの研究分野でもあります。その点では、福祉専門職の人たちと同様に私達建築設計に関わる者の責任は今後益々大きいと感じています。
 近年、痴呆高齢者問題は関心が急に高まっている分野でもあり、先に書いたように現在も特養などさまざまな施設で試行錯誤が熱心に取り組まれており、データも確実に増えてきているはずです。とはいえ、スタッフが忙しいせいもあるでしょうが、まだ残念ながら不明な部分が多く私の知る限りではこれといった決定打はないように思います。また、一部には痴呆配慮の住まいや施設についての本などを出されている研究者もいますが、殆どがバリアフリー対応が中心となっており、現在のところではさまざまの現場での試行による経験知の対応の蓄積がされている途中状態といって良いのではないかと感じています。


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